年金制度が変わることが正式に決定した2025年6月
今から二週間ほど前の2025年6月13日、国会で年金制度改正法が成立しました。これによって徐々に私たちの年金制度が変わっていくことになります。
今回は、厚生労働省ホームページの『年金制度改正法が成立しました』をベースにどのような改正が行われていくのかをざっくり把握することを目的にしていきたいと思います。
「年金制度改正の概要」を眺めてみる
まずは、改正の全体像を掴んでいきます。私のざっくりでの印象ですが以下のようなことが書いてあるのではないかと思います。
変更内容 | 意訳 |
---|---|
社会保険の加入対象の拡大 | 社会保険加入の閾値を撤廃して働き控える人を減らす |
在職老齢年金の見直し | 高齢者にもなるべく継続して働く気になってもらう |
遺族年金の見直し | 配偶者(子どもからしたら親)が亡くなったときに支給される遺族年金の不平等を是正していく |
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ | 高年収の人の社会保険料を引き上げる |
その他の見直し | iDecoなどの私的年金を改正し、国民が老後に老齢年金だけに依存しないようにしていく |
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html)
以下、私の独断で注目の内容から順に述べていきたいと思います。
※本記事は、厚生労働省資料を読みとり、個人的な見解をもとに個人の意見や体感も交えてお届けしています。詳細や正確な判断が必要な場合は、公式情報をご確認ください。
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ 〜高年収の人の社会保険料を引き上げる〜
今まで月65万円の給料から取られる社会保険料と、月75万円の給料から取られる社会保険料は変わりませんでしたが、制度変更後は65万円の人よりも75万円の人の方が社会保険料が高くなるということです。
「月65万円の賃金は、平均的にはボーナス込みで年収1,000万円に相当」する旨が書き込まれており、これはつまり「1,000万円以上もらっている人からはもう少し取りますが、それ以下の大半の人には関係ないですよ」と言いたいわけですね。
図中の表を見てみるとなんとなくイメージがつきます。月に75万円の給料がある人は、月6,100円の社会保険料をプラスで支払うことになり、10年間これを続けると、将来的に毎月4,300円ほど受給できる年金が増えるとのことです。
仮にこの図表の通りに上乗せされた社会保険料を10年間支払い続けたとすると、単純計算で取り返すまでには1.4倍くらいの期間がかかります。65歳で退職したとして、79歳くらいまでは生きれば元が取れるかもしれません。寿命の中央値は男性であれば84歳くらい、女性で90歳くらいなので、得をする確率のほうが高いはずですね?
ただ、私個人の意見としては、毎月それだけのお金を払うことへの見返りとしては小さすぎると考えます。
そもそも、年金は制度変更されるものだと思っておいた方が良く、数十年後の年金はより条件が悪くなる可能性が十分あるでしょう。そういう意味では年金のリスクは低くない認識です。
また、後述のiDeCoなどで運用できるような堅実な銘柄の投資信託と比べると、もし利回りを考えるのであれば大幅に下回ります。私自身はまだ目の前の生活を優先せざるを得ないと感じているため、保険料分を自己投資や資産形成に充てられたら良いのにとは思ってしまいますが、日本人として日本の決定には従います。
これまでの記事で「今、財布の中に入っている100円も時間を経て大化けする」という話を繰り返しています。聞き飽きた方には大変申し訳ないのですが、若いければ若いほどこの先、生きられる時間が長いため、今持っている金融資産やスキルや経験と言った財産は、同等レベルであればお年を召した人のものよりも大きな価値を持っています。それらの財産を時間でレバレッジできるからです(スキルを早めに習得すれば、それだけそのスキルを活かす時間、機会が増えますよね)。
その価値に気づけるまでの間に、社会保険料や税金などがどんどん増えて手取りが減り、そのお金で行うはずだった自己投資や子育てができずに、結果として国家全体としての損失に繋がりかねない現状に問題を感じています。
国会での決定は国民の多数決的決定として捉えられるわけですが(国民が多数決で選んだ国会議員の決定は、間接的には国民の決定と考えて良いはずです)、そうだとすると、あまりにこのレバレッジの概念が過小評価されていると思います。
現役世代が自己投資を控えれば、良い仕事、ひいては良い事業は生まれてきませんし、こどもが減れば、次の現役世代が減っていくので国家としては衰退の一途を辿ることになります。
ご興味があれば、こちらの関連記事も併せてご覧ください。
社会保険の加入対象の拡大 〜社会保険加入の閾値を撤廃して働き控える人を減らす〜
老後に貰える年金は老齢年金と呼ばれ、働いている人が納めた社会保険料から賄われます。たくさん働くと厚生年金や健康保険に入る義務が生じ、収める金額が多くなります。その「たくさん」の基準の一つが年間の給料が106万円以上というものでした(いわゆる106万円の壁)。
この年収106万円付近の人は、年収105万円の人よりも手取りが減るため、ギリギリ106万円を超えないように調整して働くという人がたくさんいます(その時点での手取りが減っても将来にもらえる年金が増えるため、一概に損するということではないことに注意です)。
その他にも、厚生年金や健康保険の加入には、会社の規模(51人以上)や学生でないことなどの条件もあります。
さて、なぜそこにテコ入れが入ったのでしょうか?それは、体力的にも気力的にもまだまだ働ける人たちが働いてくれないことは、国として少なくとも二つの意味で損失だからです。
一つは本来は労働によって生み出せたはずの価値がなくなるからです。誰かが価値のあるものを生産して消費者がお金を払い、またその売り上げを元にもっと良いものを作ったり、もっとたくさん作ったりという循環が経済の根幹です。そしてその経済力こそが国力であり、GDPは国力を測るものとして代表的な指標です。
もう一つは潜在的な財源が減るからです。少子高齢化の社会では、一人の現役世代が何人もの高齢者を支えなくてはならないとよく言われますが、「支える」というのはつまり、税金や保険料をたくさん払ってお年寄りの年金や医療費などを賄うということです。先に述べたようにまだ働ける人に年収105万円で働き控えられてしまうと、厚生年金の対象にな離ません。結果、基礎年金分しか徴収できず、年金や社会保障などの歳出の財源を得ることができません。
以上の理由から、年収や企業の規模に関する条件を撤廃、緩和し、年収105万円の人が106万円の人より手取りが多いという歪な状態を是正しようというのが発端です。
去年は日本人が90万人減りました。高齢者の割合が増えていく中で、どうやって財源を賄っていこうと考えた時に、やはりエネルギーがある人には働いてもらうというのは自然な成り行きかと思います。それは年齢を問わず、、、この点については次の章でお話しします。
↓基礎年金や厚生年金についてご興味があればこちらの記事もご覧ください。
在職老齢年金の見直し 〜高齢者にもなるべく継続して働く気になってもらう〜
これは、給与+老齢年金が一定超えると老齢年金が減額される仕組みを改めるということです。今まで月給+年金が50万円を超えた場合、そのはみ出た分の半分がもらえなくなるという仕組みでした。そうなると当然、「今まで頑張って、やっともらう権利を得た年金を差し引かれるくらいだったら50万円を超えないように働こう」となります。
その対策としてその閾値を50万円から62万円に引き上げることになりました。これも106万円と同じように、「損をするなら月給を50万円までに収まるようにセーブして働こう」といった働き控えにつながっていた原因にメスが入ったということです。
「老後2,000万円ないと年金だけで生きていくのは厳しい」旨を金融庁が報告したことで大騒ぎになったことがありました。あれから10年ほど経つでしょうか。「自分の老後は自分でなんとかする」という考えが当たり前な価値観として世の中に定着してきているのではないかと思いました。
その他の見直し 〜iDecoなどの私的年金を改正し、老齢年金だけに依存しないようにしていく〜
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html)
前述の通り、多くの人の老齢年金は基礎年金と厚生年金の二階建てになっていきます。その他にもiDeCoをはじめとした私的年金というジャンルがあります。
これらの私的年金についてはまた別の機会にしっかり解説したいと思いますが、今回の改正では、確定拠出年金と呼ばれる類のものに変更が加わりました。
この確定拠出年金は簡単にいうと、加入者ごとに設定した掛け金で定期預金や運用を行うことができる制度です。iDeCoは個人型確定拠出年金とも呼ばれ、掛金が全額所得控除の対象であり、所得税や住民税が軽減されるほか、運用益も非課税です。
つまり、掛け金の分は所得としての税金がかからず、さらに運用益を確定させた時も非課税という税金面では優遇された制度です。
iDeCoは誰でも加入でき、企業型DCは勤めている会社が採用しているかどうかによりますが、採用している会社はラッキーです。
今回の改正でiDeCoについてはこれまで65歳で満期だったものが、70歳まで加入できるようになります。
また、企業型DCでは会社(事業主)が掛金を出してくれるのですが、社員もそれを超えない範囲で掛け金を出す、マッチング拠出ができます。今回、このマッチング拠出の額において、事業主の掛け金を超えられないという制限を撤廃したという点が注目に値します。
老後の資産形成も投資信託などで運用することが当たり前の世の中になってきました。
遺族年金の見直し 〜配偶者(こどもから見た親)が亡くなったときに支給される遺族年金の不平等を是正していく〜
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html)
実は年金は老齢年金だけではありません。この遺族年金も大事な年金の要素で、配偶者が亡くなってしまった家庭への支援を行うものです。この遺族年金も今回の見直しの対象に上がり、特に大きく話題になっているように見受けられますので確認していきましょう。
改正のポイントは現在の複雑な給付条件をよりシンプルにして、あらゆる状況の人において平等になるような給付条件へ改正されるということです。
配偶者へ給付される遺族年金に関する改正
まずはパートナーが亡くなった旦那さんや奥さんが受給する遺族年金について見ていきます。現在の制度では、まず男女間での条件の差があります。男性は配偶者が死別した時点で55歳以上でないと給付はない一方、女性は何らかの形で必ず給付されます。
さらに、女性の中、男性の中でも年齢によって条件が著しく変わり、女性であれば30歳が有期給付か無期給付かの分かれ目、つまり支給が5年で打ち切られるか生涯続くかの分かれ目でした。「20代ならまだ若いし、5年間の中で再就職をしたり、再婚したり、なんとかせよ」という大雑把な考えが根底にあったように思えます。20代と言っても29歳の女性と30歳の女性の間、あるいは男性の基準に照らし合わせると54歳と55歳の男性の間でそこまでの差があるのでしょうか、ちょっと不思議に思います。
女性の社会進出が進む中で男性との条件の差が著しいことや、年齢による受給条件の差も著しいことを是正すべく見直しが行われました。
結果、男女ともに60歳未満で死別の場合は原則5年間の有期給付と一律化され、条件がシンプルになりました(5年後も支援が必要な場合の継続給付の仕組みもあり)。
全体として給付される人の範囲が広がった一方で、これまでの制度であれば、無期で給付されるはずだった人が5年給付になる場合も出てくるため、世論においてインパクトが大きく映ったものと思われます。
こどもへ給付される遺族年金に関する改正
現行の制度においても、18歳になる年度の3月31日までのこどもに対しても遺族年金の給付が行われています。これは子育てをする人たちの心強いセーフティネットだと思います。ただ、場合によって支給されないケースがあったため、変更が加わることになります。
具体的な例が図に載っていますが、例えば妻が再婚した場合や、配偶者遺族が高年収の場合、元配偶者が亡くなった場合などが挙げられています。こちらは全体的に手厚くなったと考えて良さそうです。
最後に。人口が減っていく日本で生きていくにあたって
今回の改正法をザッと見ていく中で、なんとなく本質が掴めてきた気がします。端的には、よく働き、それ同時に資産形成もしてもらうことで、なるべく年金や社会保証に頼らない人を増やしていく一方で、子育てへの心理的安全性は確保するという点がキモかと思います。
もはや昔のようには人口が増えていくわけではないので、使えるものはどんどん使っていく、そんな世の中になっていくのではないかと思います。
この改正は、半分は持て余している労働力や持て余している(ように見えるらしい)お金を社会に還元するためのものです。
良いか悪いかは別として、この内容が基準に次の世論が形成されていくものと思います。60歳で退職するのが当たり前の価値観だった人たちの選択が今につながり、65歳定年や70歳定年を当たり前にしてきました。
将来は80歳や90歳まで当たり前に働く世の中になっているかもしれません。そんな予感を感じつつ、身の振り方も考えていく必要があるのかなと感じる今日この頃です。
来月、7月20日に参議院選挙があります。民主主義はある意味残酷で、自分の選択が自分に返ってきます。本当にその公約に現実性があるのか、優先して取り組むべきことなのか、耳障りよく聞こえるが将来にとって本当にプラスか、よくチェックして投票できればと思います。
引き続き私は日本に住むと思います。よろしくお願いいたします。
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